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恋は百年戦争46



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昨夜のことを手短に話したユンホだったが、チャンミンはルナの意図を理解して赤面した。



ユンホが嫉妬したと言ったのは、チャンミンが他の人といたことに対してだと思っていた。



実際のルナの作戦はかなり話を盛ったどころかもはや大嘘だったけど、結果的にはあれほど頑なだったユンホを一気に動かす起爆剤になって功を奏した。



(だからユンホさんはあんなに怒ってたんだ。僕がいつも男の人と遊んでるって勘違いして………)



ルナさんの作戦も知らされず、僕だけが何も知らずにのこのことテスさんに会って、呑気に相談していたことが恥ずかしい。



テスさんも全て知っていて協力してくれていたのかな。申し訳ない。それでもユンホさんが嫉妬してくれた事実が嬉しくて堪らない。



ユンホさんに振られて無視されて会えなかったことは悲しいけど、それでも僕が別の人といると聞いただけで、いつも冷静な人があんなに息を荒げて走って探し回ってくれたと思えば前のことなんて何でもよくなる。



チャンミンは納得し、ルナとウヌに感謝した。そして、てっきりユンホへの誤解も解けているものだと思っていた。



しかし、ユンホの誤解は続いていた。



眼前のチャンミンの恥じる姿は可愛らしいが、ユンホにとっては自分のしていたことがバレたことで決まり悪そうにしているようにも見える。



けれど、チャンミンを責めるのはお門違いだと、自らを戒めた。



たとえチャンミンが他の男と遊んでいたって、自分に口出す権利はないし、そんなことでもう嫌いになれるわけがない。それに、こうなったのは自分のせいでもある。



(この可愛いチャンミンを…俺以外の男が見たのか?俺のせいで…………)



俺がつまらない意地を張ったせいで。



ああ、俺のせいだ。自分を殴りたい。



そんな自己嫌悪に陥るユンホの瀕死の葛藤をチャンミンは露知らず。しかしユンホからはその件について言い出せずに話はすれ違ったまま進んだ。













チャンミンのお腹が空腹を告げたので、ユンホは朝食を作った。台所に立っている姿を見るだけでじーんとした。



普段から不健康な食事に偏りがちなチャンミンのために、トーストの他にサラダやスープも用意してくれた。



「美味しいです!」


「よかった。またあの清々しい食べっぷり見せてよ」


「む…馬鹿にしてるんですか?初めて会った時もそうやって笑ってましたよね」


「ははっ、違うよ。美味しそうに食べるなあって…あまりに可愛くて見惚れてた」


「そ、そうですか………」



前々から思っていたが、ユンホは料理が上手い。チャンミンの家に来た頃からよく夕食を作ってくれたし、手先も器用だ。



「チャンミン?」



(ルナさんは、家事が苦手なユンホさんに生活費を貰ってるって言ってた。でもユンホさんは料理も得意だし………)



チャンミンはもぐもぐと口を動かしつつ、ユンホを見つめた。



「ユンホさん、昨日の続き…聞かせてくれますか?」


「うん。えーと、何から話せばいいかな………」


「あ、あの」


「ん?」


「実は、僕……ユンホさんと、ウヌとルナさんの関係について聞きました」


「…え?ああ…なんだ………、知ってたのか」



ユンホの力が抜けた。


一番どう伝えようかと悩んでいた事だった。


チャンミンは知っていたからこそ、あの態度だったのかと思うと納得できた。



「ウヌから聞いたのか?」


「はい。ウヌと…ルナさんから」


「えっ、ルナ?」



ユンホは目を丸くした。


いつの間にそんなことを話すような間柄になっていたのか。


聞けば自分の帰りが遅い時、何度も家に来ていたという。そんなことはふたりから聞いていなかったけど、全ての事情を知っていたというのなら合点がいく。



あの時、ウヌに自らチャンミンの様子を聞いてしまったのも全てバレていると思うと恥ずかしいが、もう今はそんなことを言っている場合ではない。



「そうか……。じゃあ、そっちの方が話は早いね。ウヌとルナは俺の家族だけど…本当の家族じゃない」


「はい」


「俺は、ウヌの父親でもルナの夫でもない。本当は、ウヌの叔父で、ルナの義弟だ」


「…はい」


背筋をぴんと伸ばして真剣に話を聞くチャンミンに微笑み、ユンホは過去について語り出した。











ユンホはチョン家の次男として生まれた。


両親は厳格なクリスチャンだが、愛情をかけて育てられた。厳しくも優しい父と母だった。


ユンホには歳の離れた兄がいた。


長男のジェウォンは、幼い頃からユンホの憧れだった。



背が高くてかっこよくて優しく、頭の良い自慢の兄。よく後ろをついてまわった。それでも嫌な顔せず、「兄ちゃん!」と呼べば「ユノは可愛いなぁ!」と言いながら、にこにこと笑って頭を撫でてくれた。



幼馴染のルナとも仲が良かった。いつも明るくて優しいルナにユンホは懐いていたし、ジェウォンが彼女と付き合っていることも知っていた。



ユンホが11歳の時、ルナが妊娠したと告げられた。正直その時は事の重大さなんてものは、まだあんまりよく分かっていなかった。だから純粋にユンホは喜んだ。



あんなに仲の良いジェウォンとルナが結婚するなら絶対幸せに決まっている。だから「おめでとう!」と笑顔で伝えたユンホに、ジェウォンは優しく笑って「ありがとう」と嬉しそうに言った。



だが実際に2人を応援していたのは子供のユンホだけで、周囲の大人たちは大反対だった。



特にクリスチャンである両親は婚前交渉に否定的だ。それだけでなく学生の結婚、妊娠、出産にも当然反対した。



今なら双方の両親が反対した気持ちも理解できる。でもその頃は全く分からなかった。何故みんなは幸せな2人に賛成しないのか不思議だった。



必死に両親に頭を下げるジェウォンの背中を呆然と見つめた。ルナが来た時は、目の前でジェウォンが父さんに叩かれた。それが怖くて、ユンホは部屋へ逃げ込み泣いた。幼いユンホは無力で何もできなかった。



「俺だけが兄さんの背中を押した。それに意味があったのかは分からないけど…。その時のジェウォンは今のチャンミンと同じ年齢で………今考えれば確かに両親の助けなくしてやっていくのは無理だなぁって思うよ。でもあの頃はそんなこと全く分からなかった」


「……………」




兄さんは絶対結婚して子供も産むって言ったけど、両親は最後まで2人を認めず、結局兄さんは勘当されて家を追い出された。



兄さんが家を出る日、数え切れないくらい一緒に遊んで眠った部屋で、荷物をまとめるその背中が悲しそうで寂しそうに見えた。



どうすればいいか分からずに「行かないで」と泣きながら必死に止める俺の頭を撫でて、兄さんは「これからはこの部屋もユノが使っていいからね」と優しく笑った。



兄さんは大学進学を諦めて、高校卒業後すぐに働き始めた。



ルナのご両親が最終的に折れる形で援助もしてくれたみたいだけど、人を養っていくのは簡単なことじゃない。ましてや勉強ばかりでバイトの経験もなかった兄さんが、毎日毎日仕事漬けの日々。



俺は兄さんから住所を聞いていて、よく学校終わり、家にこっそり行った。幼いウヌと遊んだり、面倒を見たりしてた。俺も子供ながらにふたりが苦労していることは分かってたから、実際は何の役にも立たなかっただろうけど…少しでも助けになればって思っていたのもある。


「でも本当は、幸せなふたりを見ることで俺は安心したかったんだと思う」


「安心………?」


「兄さんの夢は検事になることだった。前に話した俺の昔の夢は……そんな兄さんに憧れて真似してただけ。でも兄さんは本気で目指してた。勉強して、夢のために頑張ってた。でも、全て捨てて結婚すること選んだんだ」


「……………」


「兄さんはルナとウヌと家族になって、幸せになることを選んだ。夢も家族も捨てて、目の前の幸せを掴んだんだよ。もちろんそれを間違ってるなんて思わないし、否定するつもりはない。だからこそ………ウヌが生まれて、3人で幸せそうに笑顔で過ごしている姿を見ることでやっぱり兄さんの選択は間違ってなかったって俺が思いたかったんだ」


ルナから聞いた話と、チャンミンの中で少しずつ繋がっていく。


初めは遠慮がちだったユンホも、「初めて人に話すよ」と言いながら…次第に感情を言葉に乗せて吐き出しているようだった。


ユンホは、ふぅーと息を吐いた。


「兄さんは苦労していた。大変だったと思う。何しろゼロの状態でがむしゃらに頑張ってたんだから。一方で…俺は両親から優遇された」


「優遇…ですか?」


「ああ。兄の分まで立派になってくれ…っていうのが両親の口癖だった。今まで兄に注いでいた全てを俺が受けることになった。愛情、期待、プレッシャー、その他諸々」



ユンホは小さく笑った。



「堕ちた兄の分まで立派になってくれ」と毎日のように言われて、全く興味なかったのに塾に入れられて勉強させられた。優秀な兄のようになってほしかったんだろう。



それが嫌でよく塾をサボって兄さんの家に遊びに行ったよ。ルナは優しいし、甥のウヌは可愛い。あの小さな兄の家は、俺にとって逃げ場であり癒される場所でもあった。兄さんは仕事でいつもいなかったから、ウヌと公園で遊ぶことも多かったかな。



俺はのらりくらりと平均並みの成績をキープしつつ、自分的には上手くやっていた。両親も、真面目な俺の態度に満足げだった。まるで兄さんのことは忘れ去ったかのようだった。



「俺は高校3年生になった。今のチャンミンと同い年だね。そして…兄さんが結婚を決めた年」


「…はい」


「適当に受験して大学に入って、働いて生きていけばいいかなんて気軽に考えてた。俺には夢も何もなかったから」



ユンホが遠い目をして、昔を懐かしむように目を細めた。


重い蓋をされた思い出を、少しずつ呼び起こしているようだった。



「でもある日、ジェウォンが倒れた。俺は仕事で来るのが遅れるっていうルナからの連絡で、真っ先に病院に走った」


あの日のことは、鮮明に思い出せる。


今みたいな暑い夏の日だった。


学校を勝手に早退して、足にありったけの力をこめて走った。汗だくになりながら病院に向かった。


受付で「俺は弟です」と必死に伝えて、チョン・ジェウォンと書かれた病室に飛び込んだ。





「………ユノ、来てくれたのか」





その時のことをユンホは忘れることができない。


横になり、点滴に繋がれた兄。


記憶の兄とはまるで違う。


痩せて、窶れたジェウォンの姿だった。



そこで初めて、ユンホはジェウォンと会うのは数年ぶりだということに気が付いた。



ジェウォンが亡くなる3日前だった。







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コメント

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Re: No title

>まこさま

現実は理想通りにはいかないですよね…。幸せになるための選択をしてもそれが正しいから分からない。幸せだったとしても全く苦労せずいるのも難しいですよね。

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