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恋は百年戦争49



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正直に告白するならば、背徳感や罪悪感に板挟みにされながらユンホに愛されたことも極上の幸福だった。罪の味はいつでも甘美なものだ。でもやっぱり、互いの心を曝け出してしがらみがなく愛し合うのが一番良い。体だけでなく心を繋げることが何よりも幸せだと分かった。



糸くずが絡まっても何度も解けばいい。


ボタンが弾け飛んでも縫い合わせて、何度離れても繋げばいい。



「…今、ユンホさんのご両親は?」


「俺が家が出たのを機に郊外に引っ越してる。たまに連絡はするけど仕事を理由にほとんど会ってないんだ。結婚しろって未だにうるさいしね」


「そうなんですか…」


「…まあ、どうするかはゆっくり考えるよ。チャンミンはご両親と話はした?」


「えっ、あ…まだです。そろそろ言わないとって思ってはいるんですけど」


「そうか。チャンミンは俺と違って早く言った方がいいな。連絡してみたら?」


「……はい」



チャンミンはユンホと結ばれても、他にも問題はあった。時間が差し迫っているものを後回しにしても意味がないからと、促されるまま渋々両親に「受験のことで話したいことがある」とだけメールを送った。







朝帰りどころか夕方になってチャンミンを連れてようやく帰宅したユンホを、ルナは満面の笑みで出迎えてくれた。

 
「ユノ、随分と遅ーいお帰りで」


「……………」


「あら、無視?私たちのおかげでチャンミンくんと仲直りできたんじゃないの?」


「………その節はどうも」


「どういたしまして」



昨日と同じシャツが明らかに皺くちゃになっているのをちらりと見てにやにやと笑うルナに、ユンホが気まずそうに眉を寄せる。



チャンミンはその様子を、目をぱちぱちとさせて見守った。



初めてユンホに出会った日や、バーベキューの日は未だこのふたりが夫婦だと思っていた。


だからこそチャンミンはルナに盛大に嫉妬していた。大好きなユンホの妻であるルナに。しかし事実は違った。その時はおそらく夫婦を演じていたからだけど、改めて見るとルナの言っていた通り、姉弟のような関係性のようだ。



何より、いつも落ち着いた大人のユンホがルナに押され気味なことに驚いた。でもよく考えればユンホはルナより年下だし…と自らを納得させた。


「昨日はよくも嘘ついたな」


「何のこと?」


「ルナ………」



姉弟喧嘩のようなやり取りをしばらく見ていたが、未だに玄関で話していることに気付き、ようやくそこでリビングに案内された。



「チャンミンくん、ありがとうね。頑固者のユノを振り向かせてくれて」


「あっ。い、いえ…僕の方こそ、色々とありがとうございました」


「うふふ。いいのよ」


「…あの、テスさんは…?」


「大丈夫よ。尻餅ついただけだし平気って連絡きたから。にしてもあのユノが突き飛ばすなんてねー」


「そうですか…」


「テスって誰?もしかして昨日の男?」



ユンホの目つきが変わる。ぎらりと鋭い目線でチャンミンを見ると、気まずそうにこくりと頷くものだから目を剥いた。



「何?あいつが何だって?」


「やだ!まだ嫉妬してんの?やっぱり、あれだけ頑固で冷え切った心のユノには嫉妬させるのが一番いいと思ったのよねー」


「茶化すな」


「ほんと………ベタ惚れのチャンミンくんに飽きられなくて良かったわね?」



ユンホの頑固さにおそらく最もやきもきさせられたルナのささやかな反撃に、ユンホはぐぅと押し黙った。テスのことが気になって仕方がないユンホにチャンミンは弁明した。



「あの、ルナさんが僕の志望大学の先輩を紹介して下さって、それがテスさんなんです。だから本当に何も…」


「そうそう。たまには他の年上の男とデートしたら気も変わるかもよ?って気分転換にマッチングさせたの」


「っルナ!」



ユンホが声を荒げてルナが腹を抱えて笑った。


ルナは、ふぅと息をついた。



「チャンミンくん連れて、わざわざ報告に来てくれたの?」


「ああ。色々と…ありがとう」


「………チャンミンくんのこと、幸せにするのよ。もう手放しちゃダメだからね」


「………分かってる。でも」


「でもじゃないの。それに。分かってるつもりよ、ユノが一体何に悩んでるのか」


「え?」


「ひとつだけ黙ってたことがあるの」


「黙ってたこと…?」


「………12年前、ジェウォンが息を引き取る前に、少しだけユノのことを話したの」



ユンホが、ひゅっと息を飲む。



「ユノに無理なお願いをしたって。自分のせいで迷惑かけて、大変な思いをさせてるだろうって」



押し黙り俯くユンホの手を、チャンミンはぎゅっと握った。



「"ごめん、ありがとう"」



ルナの言葉に、ユンホが顔を上げた。



「いつかユノが本当の気持ちを話したら、そう伝えてくれって。私には何のことかよく分からなかったけど…。今となっては意味が分かる気がする」


「……………」


「ユノ、あなたはジェウォンに頼まれて……ずっと私たちのことを助けてくれていたんじゃない?」


「………何で」



ユンホの反応は肯定を表していた。ルナが肩を竦める。



「ただの勘…っていうほどのものでもないけど。ジェウォンのことだから、ずっと長い間無理してたと思う。あの頃は私も余裕がなかったけど…今なら彼のこと分かる気がするの。当時のジェウォンは少し様子がおかしかったから………。責任感が強くて優しいユノに色々と頼んで押し付けちゃったんじゃないかって」


「押し付けられたわけじゃない。俺は自分の意思でやったんだ。でも結局は自分勝手で中途半端だった。俺は………」


「でも私たちはユノの優しさに救われたのよ。本当に助けてもらった。だから今度はその優しさを自分に使って。私たちはもう十分幸せよ。もう、自分を幸せにしてあげて」


「………」


その言葉に、ユンホは静かに泣いた。


つーっと音も無く頰を涙が伝い、その切ない横顔にチャンミンはぎゅうっと心臓が締め付けられる想いだった。でも何も言わずに黙っていた。


「今まで分かってあげられなくてごめんね、辛い思いさせて…。それなのに、助けてくれてありがとう」


ルナも涙ぐんだ。


ユンホは何度も首を振った。


「……もう私もすっかり健康になったし、ウヌももう大人よ。全部ユノのおかげ。だから私たちのことは…本当に気にしなくていいの」


「………ああ」


涙声で、何度も頷いた。


目頭押さえて俯くユンホの背中を優しく撫でると、目を赤くしたユンホが顔を上げてチャンミンの手を握る。


ルナが微笑んだ。


「本気で好きになったチャンミンくんを幸せにしてあげなさいよ。それに、ユノのせいで散々悩んでたんだからね」


「ル、ルナさん」


「それに!年甲斐もなく若い子に無理させるんじゃないわよ」


「………っ」



ユンホは顔を真っ赤に染めた。


見たことないユンホの姿にチャンミンはぽかんと見惚れた。照れる姿なんて貴重だ。可愛い。でもルナの前では自分には見せない姿をたくさん見せているんだと思うと、なんだか面白くない気分にもなってしまう。


嫉妬深いのはユンホだけではない。


でも、ルナもユンホもどことなくすっきりとした顔をしているから、ほっと安堵の息を吐いた。



バイトから帰ったウヌが、リビングへ入るなりチャンミンとユンホを見て「ほんとに付き合ってるんだ…………」と、驚いていた。分かってはいても実際目にするのとでは衝撃が違う。



「やっぱ…なんつーか、父さんとチャンミンが手繋いでるの見ると…」


「変?嫌?」



チャンミンが慌てて離れようとするも、ユンホは全く意に介さない様子で手を離さない。



「違うよ。いやー…照れ臭いなと思って。でもやっぱり嬉しいよ。よかった」


ウヌがはにかんだ。



「さて、と。私は出掛けるから、後は自由に話しなさい。チャンミンくん、ごゆっくり!」と言い残し、ルナは部屋を出た。



しばらく無言になった3人だったが、やがて意を決したようにウヌが顔を上げる。じっとユンホの目を見つめた。




「俺、これからも父さんって呼ぶから」


「ウヌ………」


「父さんのこと…ほんとに尊敬してて好きだから…さ。父さんがやることは全部応援したいし、幸せになってほしい」



普段は飄々としたウヌの飾らない言葉。「父さんって呼んでもいいよな?」という言葉に、ユンホは微笑んでウヌの頭をがしがしと撫でた。


「もちろんだ。そうだな、ウヌは俺の唯一の息子だ」


「父さん…」


ウヌが嬉しそうに破顔する。


勿論実の父親のことは大切に思っていても、それ以上に長く一緒に過ごしてきたユンホも大切な存在だ。父親のいない自分を、ユンホが愛情を注いで育ててくれていることは身に染みて分かっている。ルナが仕事ばかりで寂しい思いをしないようにと、ユンホがいっぱい遊んでくれた。


幼い頃、父親がいないとウヌを揶揄ってきた同級生を黙らせたのもユンホだ。


父のように、兄のように、時には友のように接してくれた。


「…本当にありがとう。感謝してるよ」


「ウヌ………」


「それにチャンミンも、俺の大切な親友だから…幸せになってほしい」


クラスで人気者のウヌと、おとなしいチャンミン。



クラスメイトに囲まれている時のウヌはいつも笑っているけど、心の中では何を考えているかなんて他の人には分からない。ウヌが最も心を開いているのはチャンミンだった。


チャンミンは嬉しくて微笑んだ。


「……ウヌ、ありがとう」


「俺たち、親友から家族だな!」


「えっ!?そ、それはちょっと気が早いかな…」



戸惑い照れるチャンミンに、ウヌがニヤニヤと冷やかしながらバンバンと背中を叩く。



「ぐえっ!」



首根っこを引かれ、ウヌが引き剥がされた。



きょとんとするチャンミンの腕を引いて、ユンホはウヌを見下ろす。



「チャンミンから離れろ」


「えっ!?嫉妬!?」


「チャンミン、ウヌにもあんまりべたべたくっつかないで」


「え、あ、はい…」



心なしかチャンミンへの口調が優しくて甘い。



ふたりのことは応援してるけどイチャイチャする姿には慣れないから見たくない。そこは未だ複雑な感情だから、ウヌはむず痒い。



「うわー応援はしてるけどまだ親友と父さんのこんな姿は見たくない!」


「!ユ、ユンホさん!離れて…あっ…」



さすがにウヌの前では恥ずかしくて抵抗するも、構わずチャンミンを抱き締めたユンホに、今まで我慢していたウヌは耐えきれなくなったのか「あーーーー!」と雄叫びをあげた。



「言っとくけど!!絶対リビングではヤるなよ!!!」



顔を真っ赤にして言い捨てて、部屋を出て行った。ドタドタと階段をのぼる音の後に、バンッとドアを激しく閉めた音がした。



何故かふたりきりになったリビング。



嵐のように去ったウヌに呆然としたが、言われた言葉を反芻してぼんっと顔を赤くした。



「え、ま、まさか………?」


「この前シたことはさすがに気付いてないと思うよ。ここでね」


「!!!」



ユンホにはお見通しで気付かれていた。今座るソファーは、まさに以前交わった場所。ユンホに跨り、あられもない姿でセックスしたことを思い出してしまった。



「あの時のチャンミン、いつもより声出てて興奮してたね。可愛かったよ」


「やっ…やめてください、恥ずかしい…」


「ふふ、ごめんね」


「もう………」



ユンホが甘えてくれている気がする。嫉妬を剥き出しにしたり、子供のように笑ったり、素のユンホを見ると幸せな気持ちになる。


いつも完璧な人が自分の前では、ありのままの姿でいてくれることがこんなに幸せなんて。



「…今日はありがとう。ルナとウヌと話せて…長い間ずっと抱いてたしこりが消えたよ」


「よかったです。ユンホさん、大好き…」



ぎゅうっと抱き着いたチャンミンを、優しい表情で見つめながら強く抱き締める。ユンホの腕にすっぽりと覆われる細い身体のチャンミン。頭に顔を埋めればまだ若くて純粋な甘い匂いがする。


ユンホはまた変な気を起こしそうになり、前はこんなんじゃなかったはずなのにと内心呆れた。


チャンミンのおかげで癒された。救われた。チャンミンの言う通り、ウヌの父親でなければ出会えなかった。


こうやって歩んできたからこそ、チャンミンに出会えた。そう思えば、自分の運命をようやく受け入れることができた。



「言った通りあの日は…兄さんの命日なんだ。いつかチャンミンと一緒に墓参りにも行きたい」


「…はい。僕も、行きたいです」


「その前にチャンミンの将来のことを考えないとね。もう秋だし、そろそろ本格的に勉強しないといけないな」


「………う、はい」


すっかり忘れていた。


頭の隅では分かっていたつもりだけど、チャンミンは受験生。さっき親にメールを送った後、すぐに電話が来ていたが無視していたから連絡しないと。


「将来のことは…まだ時間はたっぷりあるから少しずつ考えよう。でも、チャンミンのことは時間に限りがある。だから俺も手伝うよ。頑張ろうな」


「はい!頑張ります!」


ユンホと一緒なら頑張れる。ユンホがいれば何でもできる。チャンミンは本気でそう思った。



甘い雰囲気のまま、結局ふたりは何度もキスをしてしまい、ユンホがチャンミンを押し倒したところで丁度、ウヌに見られて怒鳴られることになることは未だ知らない。



チャンミンの長い夏が終わった。





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コメント

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Re: No title

>happy925さま

自分の両親でも恥ずかしいのに父と親友(男)なんて余計に複雑ですよね!ごめんねウヌ^^チャンミンもいつまで経っても恥ずかしいので暫く慣れそうにないです。笑

わーーありがとうございます!

Re: No title

>しろさま

ウヌはなんとなく察してそうですね。もしかすると、なんか匂いとかしちゃったんですかね^^?←

私もふたりの対面座位見たいです10万払います(笑)ウヌくん可愛いですよね!おすすめです!w

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