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メルト7



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チャンミンさんは手を振り払おうとはせず、足を縺れさせながらも大人しくついてきた。



一通りの多い駅前から学生の多い通りへ入り、住宅街へ向かう。




数週間ぶりに会う彼は何も変わっていないけどほんの少し痩せた気はする。大した期間じゃないのに2、3日に1回は会ってたから久しぶりだと感じるのは俺が心の底では会いたいと思っていたからか、俺だけじゃないのか。




相変わらず細い手首を掴んで引っ張っていると、チャンミンさんも俺の手首を掴み返してきて一瞬ドキッとしてしまった。




今日はおじいさんが病院の日じゃないからお店にいるだろう。今あそこで話す気にはなれないから、俺の家にチャンミンさんを連れていくことにした。




古書店の前を通り過ぎて俺の家に向かってると察したチャンミンさんが息を詰めていたけど放っておいた。




家に着くまで俺たちは無言だったけど、手は繋がれたまま。チャンミンさんは今どういうつもりで俺の手を握り返してるんだろうな。







「どうぞ」


「…お邪魔します」



チャンミンさんは玄関できっちりと脱いだ靴を揃えてたけど、家族の共有スペースでヤってたくせにその丁寧さは何なんだと言いかけてやめた。




チャンミンさんは俺の家に来るのは初めて。



狭い部屋の中をチャンミンさんは興味深そうにきょろきょろと見渡しているので座る様促した。



チャンミンさんは部屋の隅に正座して、結局積み上がったままの本たちを見るとそっと指で撫でた。俺は見て見ぬフリをした。



「お茶しかないんですけどいいですか?」


「え、あ…うん。ありがとう…」



チャンミンさんは明らかに元気がない。



さっき嫌味を言ったくせに結局女ではなくチャンミンさんを選んで自分の家に連れ込んだ俺を彼はどう思ってるのか、その心情は全く計り知れない。まさに謎。



優しくする様に努めたいけどこの前のこともあって距離感が分からない。そう、尋常じゃないくらい俺は緊張している。



「はい、どうぞ」


「ありがとう」



氷たっぷりの麦茶を入れたグラスを受け取るチャンミンさんの指が触れて、またうるさいくらいに心臓が高鳴った。俺は童貞か。




狭くてボロいアパートの一室にチャンミンさんがいる。電気代節約のために扇風機の音だけがぶーんと鳴る。




ごくごくとお茶を飲むチャンミンさんの額にはまだ汗が浮かんでいて、そういえばこの人は汗っかきなんだった。それともチャンミンさんも緊張してるのか。



「……………」


「……………」



俺はチャンミンさんが話し始めるまで待った。本当に彼の前では俺は辛抱強い男だ。



いや、絶対に彼の口から言わせたかった。



俺の促すような視線に気付いたチャンミンさんがごくりと唾を飲み込む音がやたらと鮮明に聞こえた。



やがて観念したように口を開いた。



「えっと…。さっきの子………彼女?」


「に、なるかもしれなかった奴です」


「………邪魔して本当にごめん」


「もういいですよ。で、何ですか?話って」



視線を落として、もじもじと手持ち無沙汰に指をいじるチャンミンさんはいつもの大人の雰囲気から一転して子供のようだ。



「最近………お店に来ないね」


「…そうですね」


「……えっと……」



必要以上に話さない俺に言葉を詰まらせたチャンミンさんは、言い淀みながらも続ける。



「何で…来てくれないの?」



確かに前なら2〜3日に1回は行ってたからそう思うのも普通かもしれない。



「それにあの日も…」


「ああ…次の日?よく考えたら予定あったんですよ」



嘘だ。家に引きこもっていた。



「じゃあ!何で僕のこと…ブロックしたの?」


「…間違えてしちゃったのかもしれません」


「嘘!本当のこと言ってよ。僕何かした?」


「何もしてません」


「ユノくん……」



チャンミンさんは拗ねたように唇を尖らせたけど、すぐに悲しそうに黙り込んで俯いた。



いやいや、俺。何をビビってるんだ。チャンミンさんに問いただすと決めたじゃないか。濁して逃げてどうする。



「……いくら本買ってもチャンミンさんのこと全然教えてくれないし、ずっと課金して………。いや、学生なんでお金なくて。すみません」


「っそんなつもりじゃ……!」



驚き目を見開いたチャンミンさんだが、ぐっと唇を噛んでまた俯く。



「本なんて別に買わなくてもいい。話すだけでもいいし、アイス食べに来てくれるだけでも…」


「………」



俺だって本当はそうだ。本なんてどうでもいい。



チャンミンさんに会いたくて行ってるだけなんだから。



このままじゃ拉致があかない。



俺の良心はついに折れた。この空気が気まずいし、チャンミンさんの話を聞きたかったのは事実なんだから待ってばかりで遠慮する必要はない。



それに、チャンミンさんのそんな顔が見たいわけじゃない。



「………この前の男」


「え?」


「彼氏ですか?」



今度は驚いていない。チャンミンさんもこの事を話してくれるつもりなのかもしれない。



「………違うよ」


「じゃあセフレ?」



単刀直入な言葉に、チャンミンさんの目が見開かれる。



「な、何で………?」


「あの男とヤッてたでしょ?」


「………ユノくん、見てたの…?」



俺の投げやりな言い方に、チャンミンさんは呆然とする。青ざめた表情を見てるとまた苛々する。



「はい。俺を追い出してセックスしてましたよね?」


「…………………」




無言は肯定だと如実に態度が語っている。認められると余計に心臓がえぐれる。



やっぱりヤッてたんだ。ショックで胸が痛い。



「気持ち良さそうに喘いでるのばっちり見ました。随分と激しそうでしたね」


「…………っ」



捲し立てる俺の口調は責めるようで、チャンミンさんの目元がみるみるうちに潤む。やばい、と思ったけど事実だから仕方ない。俺も泣きたい。



「元々あの男から逃げてきたんですか?ただの痴話喧嘩?それであのおじいさんのお店に転がり込んだんです?」



「違う!そんなんじゃない!それに、彼とはもう会わない………」



「会わない?どうして?」


「…………」


「俺のこと遊び人とか言って、チャンミンさんには負けますよ。チャンミンさんは男と遊ぶのが好きなヤリチンなんですよね?あ、こういう時はどう言うんですかね。ヤリマン?」



チャンミンさんの顔が更に歪む。


違う、こんなことが言いたいわけじゃないのに。



「すみません、こんなこと言って…。俺ちょっと混乱してて……今冷静に話せそうにないんで帰ってくれませんか?」


「っ待って…話すから…。少し時間が欲しい」


「無理です。ほら、帰って。このままだともっと酷いこと言ってしまいそうなんで」



チャンミンさんはぶんぶんと首を振る。子供みたいな仕草で駄々をこねるように。


いつもの大人なチャンミンさんはどこにいったんですか。



「はあ、出て行かないなら俺が出ます」



自分の家なのに何言ってんだよと思うけどその時は必死だった。みっともないけど、俺の方が本当に泣きそうだったから。






立ち上がり玄関は早足で向かう俺の後ろでガタッと音がして、俺は背中に突撃された。



「ユノくん!」


「わっ!?」



なんとチャンミンさんは抱きついてきた。



甘い香りがして一気に体に熱が集まる。背中が特に熱い。



背中へ突撃された衝動で盛大によろけた俺は、玄関のドアに両手をついて転ばずに済んだ。チャンミンさんは体重を預けて両手を俺のお腹に回してぎゅうぎゅうとしがみついてくる。



「なっ、なに?!何ですか?」


「僕のこと罵っていいから、話を聞いてほしい…。今更遅いって思うかもしれないけど」


「…もう遅いですよ」


「お願い」



振り向くと、チャンミンさんがあまりに近くにいて息が止まった。



チャンミンさんの瞳に浮かぶ涙は今にもこぼれ落ちそう。そんな顔見たことない。いつも優しい笑顔ばっかり見てきたから。



何をそんなに必死になってるんだ、俺もチャンミンさんも。



「はあ……………」



結局あれこれ考えてる時点で俺はチャンミンさんに惚れてるんだ。


だからチャンミンさんに手を引かれてまた部屋に戻るのも大人しく従った。



向かい合って座ると、姿勢の良いチャンミンさんが真っ直ぐに俺を見るから、俺も観念してチャンミンさんの目をじっと見た。



「じゃあ、今すぐ全部話して下さい。チャンミンさんの秘密。というか、何をしてて、何でここに来て、この前の男は誰だとか」


「うん…………」




正直に言えば、一番気になるのはこの前の男。



あいつは誰なんだ。



恋人じゃないのにヤるなんてセフレだろう。それにあの男はチャンミンさんの過去をおそらく知ってるというのが無性に腹立つ。友達だと言いながら、友達が知らないのにセフレが知ってるって何?いや、あの男自体がチャンミンさんの秘密なのかもしれないけど。




とにかく、チャンミンさんの過去というよりあの男との関係が知りたいだけ。




ところが、あれだけ必死に呼び止めたくせに、チャンミンさんはまた口を噤む。溜まってた涙がついにこぼれて、俺はついにどうでも良くなった。



「………チャンミンさん。やっぱり無理に話さなくて大丈夫です。そんな悲しそうな顔してるのに強要するなんて罪悪感あるんで」


「ち、違う……。緊張して……」


「それなら尚更言わなくていいです」



知りたいけど泣かせてまで言わせたいわけじゃない。そこまでして聞いたってもう何の意味もない。それに、チャンミンさんが他人の俺に話す必要もない。



あんなに苛立ってたのに、気になってるのに、涙を流すチャンミンさんを見て怒りが収まった。悲しませたくないって思った。



好きだから傷付いたけど、好きだからこそ傷付けたくない。



いつも年上のお兄さんぶって余裕の笑み浮かべて俺をお子ちゃま扱いしたチャンミンさんは、おどおどと困ったような様子で何だか力が抜けてきた。



「でも…」


「俺たち…ただのご近所さんですよね。まあ、友達…でもあるかもだけど。何でも絶対話さないといけない決まりなんてないし」


「そんなこと言わないで…」


「チャンミンさんが話したいなら聞きます」


「……話したい」


「じゃあ話して」


「……………」


「……………」


「ごめん。僕のこと、呆れてるよね……?」


「……呆れたというか……何が何だか分からないですね」


「……そうだよね……」


「はあ…じゃあ、言えることから順番に話して下さい。内容によるけど、一旦は受け止めるんで」


「う、うん。分かった……」



チャンミンさんはふーっと息を吐いて、何故か顔を真っ赤にして、少し悩む様子でうんうん考え込んでいる。



そして、意を決したように顔を上げた。



あー。やっぱり顔が可愛い。



好きだわ。



なんやかんや言ってもこんなに悩む時点で俺はこの人が好きなんだな。



「ユノくん…」


「ん?」


「ぼ、僕………じ、実は……」



こんなに吃るチャンミンさんは初めてだ。


なんだ。ついに話すのか。


チャンミンさんの秘密を。



受け止めるなんてかっこつけて言ったけど、実は心の準備が。



「僕……ユノくんのことが好きなんだ」








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No title

まさかの告白からですか。
一番言いたいことだったから…かな?

モヤモヤが晴れないままですが、両想いな事に ニヤけてしまいました(//∇//)


そうなると、やはり あの男の存在が気になります!!
こんなに苦しめるなんて、どういう事なんでしょうか。
ユノを好きだという事は、あのエッチはしたくてした訳では無いんだよね?

続きがきになる!!早く読みたいです!

Re: No title

>ネロリさま

皆様きっとユノと同じ顔して驚いてると思いますwメルトは読み切り単発だったのにいつの間にか書き進めてて…自分でもびっくりです。笑←

こちらこそいつも読んで下さりありがとうございます(TT)!!

Re: No title

>happy925さま

怒りたいのに惚れた弱みで結局折れちゃうユノいいですよね。年上なのに泣くの我慢しながら話すチャンミンさん大人なお兄さんだったはずなのにいつの間にか子供のように…。

ありがとうございます!仕事中にお話書きますね!(働け)

Re: No title

>涼子さま

わーーありがとうございます!!
傷付けたくないのに色々言っちゃって後悔するけど結局冷たくつっぱね続けることもできなくて悶々のユノはがっつりチャンミンに惚れてますね。

読んで下さりありがとうございます〜!

Re: No title

>aoさま

読んで頂いて嬉しいです〜ありがとうございます!続き頑張って書きますね。笑

Re: No title

>れいさま

そうかもしれないし、他のことよりまだ言いやすかったのかもしれませんね!

読んで頂いてありがとうございます!続き頑張って書きます〜!

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